電子媒体から採算を得るのは本当に難しい。
コピーガードみたいな仕組みは素人の手には余るし、国内で公開されているコピーガード付きの電子書籍は、どれもメディアをまたぐのが困難で、それが面倒で、どうしても手が出ない。
コピーガードなしのPDFを手元の環境で作ることは容易になって、これを配信できればいいのだけれど、PDFはたいていのメディアで読めるその代わり、コピーのコントロールが不可能で、一度世の中に流してしまうと、もはや作者にはコントロールができなくなってしまう。
医療向けのデータベースであるUpToDate は、ネット上にデータをおいて、IDとパスワードとを販売している。そこにあるデータは常に最新であることが保証されて、IDを持っている人は、そこにあるデータを閲覧、コピー、印刷して持ち歩くことが許されている。
IDはその代わり、可搬性に優れすぎている嫌いがあって、IDを多人数で共有されてしまうと、このやりかたでは採算が取れなくなってしまう。UpToDate のID監視は相当に厳しくて、2人のユーザーが同じID でログインすると、アカウントを取り消されたりする。ID を広めなければそれでいいのだけれど、誰かに「ちょっと」見てもらうことが、このやりかただと難しくなってしまう。
メールマガジンはネット商売の優等生だと言われるけれど、学術方面の参考書に限るのならば、電子書籍をメールマガジン方式で配信するやりかたには、一定の成功が期待できるような気がする。
ある参考書籍を電子出版する際に、改訂頻度を従来よりも頻繁に、それをメール配信することをあらかじめ宣言しておく。ユーザーは出版社から書籍を購入することになるけれど、その際に用いたメールアドレスに、以降定期的に最新版のデータが送られてくることになる。
データの取り扱いは自由であって、ユーザーはそれを個人で用いてもかまわないし、まわりに見せたり、あるいはコピーして配ってもかまわない。
こうしたやりかたを行えば、もちろん本来は商売にはならないのだけれど、医療のように「それが最新版であることが求められる」分野に限れば、それでも採算ラインに載せられる可能性は高くなる。
エビデンスの時代にあって、問題の考えかたこそ、そんなに大きく変化することはないけれど、治療ガイドラインが変更になると、薬の量や使用順序が微妙に変わってきたりする。考えかたは変わらないし、古いガイドラインに従ったところで、それが患者さんに対して致命的な影響が出る可能性は比較的少ないにせよ、「訴えられたくない」という後ろ向きな気分は、参考書から何かを学んで、それを実際に運用する際、「それが果たして最新なのかどうか」がとても切実なものになる。
参考書籍が常に最新であることを求められる業界においては、だから誰かからコピーしてもらったデータは、それが最新であることを必ずしも保証できないその時点で、「閲覧は可能でも運用は不可能」なものになっている。もちろんコピーをくれた本人に確認すればいいだけのことだけれど、実際にそれを何かに役立てようと思ったそのとき、購買が行われる蓋然性は高くなる。
「最新版であることに意味がある」分野に限定すれば、「海賊版を配ってくれる人」という存在は、情報を配信する側から見た場合に、広告を買って出てくれる人になる。アップデートファイルが継続的に提供される限り、データを作る人も、海賊版を配る人も、ともに一定の利益が期待できる。
作者はデータを配信し、読者は購買を、あるいは広告を担当してくれ、「訴えられたくない」という後ろ向きな気分が、新しい読者に購買を後押ししてくれる。最新版に意味がある仕組みを作ることができれば、原始的な配信システムと緩いルールは、案外成功する可能性が高いのではないかと思う。
■ランキング ■通算ランキング ■メダルって?■メダル付与 ■コメント&トラックバック一覧 ■ 0人、コメント0人、スタンプ4人、メダル0ポイント