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次の2つの選択肢しかないとしたら、あなたは、どちらを選ぶだろうか?

週に60時間働いて年収400万円の暮らしが定年まで続く

週に15時間働いて年収100万円の暮らしが定年まで続く

現在は60時間400万円が「世間体」のよい生き方で、15時間100万円の生き方は「世間体」が悪いとされているんだけど、60時間400万円的生き方って、ほんとうに豊かなんだろうか?

毎日好きな本を好きなだけ読む暮らしを捨ててまで、毎日12時間仕事してお金が欲しいですか?
天気のいい日にふらりと散歩に出かける自由を捨ててまで、毎日12時間仕事してお金が欲しいですか?
好奇心のおもむくままに、気の済むまで調べ、気の済むまで考え、気の済むまで友人と語り合う自由を捨ててまで、毎日12時間仕事してお金が欲しいですか?
お金と引き替えに、人生のすばらしさの大半を捨ててしまっていませんか?
そんな人生で、死ぬとき、後悔しませんか?

現在は、「60時間400万円」の生き方よりも「15時間100万円」の生き方を一段低く見る風潮がある。

また、現在の日本では、「15時間100万円」的生き方が選びにくい社会システムになっている。
「15時間100万円」の生き方を選ぶと、いろいろ不利になる。

しかし、純粋に60時間400万円の方が好きだからそっちを選んだならともかく、
「世間体」を気にしたり、社会システム上不利になるからという理由で
60時間400万円の生き方を選ぶ人がいたとしたら、それは哀しいことじゃないだろうか。

低収入だけど、必要最小限しか働かず、毎日、ほとんどの時間を、好きなだけゴロゴロして、友達とゲームをやったり、本を読んだり、料理を作ったり、ブログ書いたり、好きなことばかりやって遊んで暮らす。
そんな生き方を選びたいという人も、けっこういるんじゃないだろうか。

pha氏が書いた「ニートの歩き方」は、そんな生き方が紹介されている本だ。

pha氏の年収は100万円ぐらいしかない。

「年収100万」とだけ聞くと、いかにも貧しくみじめな暮らしのように思われがちだが、
彼の暮らしぶりは、むしろその対極で、実に豊かで素敵だ。

好きな本を好きなだけ読んで、天気がいいとふらりと散歩をし、平日でも朝から晩まで友達とゲームをやり続け、料理をこだわって作ってみたりする。
仕事も単に労働時間がものすごく短いだけでなく、仕事をするにしても、ブログを書いたり自作のWebサービスを作ったりと、自分が気分良くやれることだけを、気が向いたときに好きなように作る。あるいは、雑誌記事を書いたり本を書いたりする。気楽な仕事だけを、やりたいときにだけ、それもわずかしかやらないのだ。

それは一つの生き方であり、価値観であり、コンセプトであり、ビジョンであり、ロールモデルだ。
こういうロールモデルの提示こそが、社会の空気を変えていくんじゃないだろうか。

そして、この生き方は極端な形ではあるものの、時代の方向性にはマッチしている気がしている。

人々が冷蔵庫も洗濯機もテレビもラジカセも持っていなかった時代には、
「所得が多いこと」が「豊かで素敵な」ことだった。
だから、1960年に池田内閣で策定された「所得倍増計画」という国家ビジョンは国民のニーズに合っていた。
実際その後、日本人の所得は倍以上になり、暮らしは劇的に豊かになった。

しかし、いまや、「冷蔵庫・洗濯機・テレビを手に入れることを目標にがんばって働く」なんて人はほとんどいない。
かつて、どうしても欲しかったそれらの文明の利器を、ほとんどの人はすでに手に入れてしまった。
それどころか、ネットという無限宝箱を手に入れ、膨大なコンテンツに好きなだけアクセスできるようになった。
これ以上所得を増やして、これ以上いったい何を手に入れたいのだろうか?
それは、貴重な自由時間を犠牲にしてまで手に入れる価値のあるものだろうか?

今、人々が望んでいるのは、所得の多さよりも、自由時間の多さではないか。
だとするなら、いま、日本の政治家が国家ビジョンをぶちあげるなら、
「所得倍増計画」ではなく、「労働時間三割減計画」ではないだろうか。
イノベーションによる生産性の上昇分は、所得を増やすことより労働時間を減らすことに使った方が、人々の生活は豊かになるのではないだろうか?
所得リッチよりも時間リッチが好まれるフェーズに、我々の社会は突入したのではないだろうか?

そして、pha氏がやっているのは、いわばその極北で、
「労働時間八割減」
なんじゃないだろうか。

この「ニートの歩き方」という本は、「毎日朝から晩まで働くのが当たり前で、それ以外の生活スタイルを認めない」という風潮や社会システムに対する穏やかなレジスタンスになっている。

「できるだけ働かない」人生を「豊か」で「素敵」とみなすという価値観。
豊かとか素敵とまではいかなくても「それはそれでアリ」とみなす価値観。

そういう価値観を、より具体的でリアルなものとして世の中に提示し、
社会の風潮や社会システムを変えていくには、
ある種の「象徴」や「ロールモデル」が役に立つのではないか。

その意味で、この本が出版されたことは、それなりに意味のあることではないだろうか。

もちろん、反論もたくさんあるだろう。

これからますます老人の人口が増える。
その老人たちの年金・医療・介護費の大部分は税金でまかなわれる。
だから、もっともっと多くの税金を、もっともっと多くの人が払わなければならない。
それには、もっとたくさん稼いでたくさん税金を払ってくれる人がもっともっと増えないと困る。
15時間100万円の人が増えたら、税収が減って、その分他の人たちの税負担が重くなる。

また、15時間100万円の暮らしができるのは若いうちだけで、
年取って病気がちになってきたら、結局は生活保護を受給することになるかもしれない。
あるいは、貯金がろくにないまま老人になれば、老後は生活保護を受給することになるかもしれない。
そうすれば、やはり他の納税者の税負担を増やすことになる。

さらに、15時間100万円で遊んで暮らすような生活では、子供を産み育てることは困難なので、
子供を育てる負担をしないのに、老後は他人の育てた子供たちが収めた税金に養ってもらうことになる。
これって一種のフリーライダーじゃないの?

ただ、これらは程度問題であって、この手の人たちによる税負担増がそれほど多くなければ、許容範囲に収まるのではないだろうか。

実際、この手の人たちの人口がそれほど多くなりそうな気がしない。
なぜなら、実際にはpha氏のようなことが出来る人は、そんなに多くはないからだ。

pha氏が低収入とはいえ、楽しく遊んで暮らせるのは、常人にはない、さまざまな才能に恵まれているからだ。

その最たるものが、「多くの人に好かれる」という才能だ。
この本の中で、pha氏はネットで自転車、パソコン、本、CD、楽器、食料品など、さまざまなものをもらったと書いている。
これは、彼が温厚で、争いを好まず、ユーモアがあり、センスが良く、知的で、気遣いがあり、人の気持ちがよく分かり、かなりの能力とセンスに恵まれながら人を見下すようなことは言わず、人を悪く言うことがほとんどなく、愚痴や憎悪を垂れ流すことがほとんどないからこそ、こんなに上手くいっている部分がある。
ささいなことで他者に怒りや憎悪を抱いたり、皮肉ったり揶揄したりするのが好きだったり、たいした能力でもないのに他人を見下すような発言をする人間は、どんなに心を入れ替えて努力したところで彼のようにはならないし、彼ほど多くの人に好かれることはなく、彼ほど簡単にネットでものをもらうことはできないのではないだろうか。

というか、これは「才能」というより「人徳」と言うべきものだろう。
彼の持っているスキルや才能の総和以上のものが、彼にはある。テクニック論ではなく、魂の格が違うというか。
何の資産も持たず、貧しい身なりをした人徳のある高名な僧侶が、ただ座っているだけで、その前にお布施がどんどん積まれていくのに似ている。
単なるスキルや能力ではないから、「徳」のない人が彼のようになろうとしてスキルを磨いても身につくものじゃない。

それに加えて、pha氏は企画センスやマーケティングセンスに優れている。
さらにそれに加えて、それを実現する力があり、しかも実際に実現しまくっている。
自分がWebサービスで起業したこともないのに「Webサービスで起業するために読むべき15冊の本」などというブログ記事を書いてアクセスを集めてアフィリエイトを稼ぐような机上の空論ブロガーとは月とすっぽんどころか、ベテルギウスとミドリムシぐらい違う。
「もくもく会」は企画コンセプトもネーミングも実に優れているし、実際に何度も開催された、地に足の付いた実績のある企画だ。
「日本一のニートを目指す」というブランディング戦略も実に的確で巧妙だ。それを運用・展開するのも、かなり優れたバランス感覚がないとすぐに破綻してしまうだろうが、彼はみごとにそれをやってのけている。
「ギークハウス」に至っては、全国展開どころか、もはや世界展開をしている。
これほどのマーケティングセンス、企画力、実現力を兼ね備えているからこそ、彼という人間自体がコンテンツになり、それがゆえに出版社から彼の所に雑誌記事や本の執筆依頼が来るのであり、しかも彼は、それをちゃんと商業ベースに乗る品質の記事や本に仕上げるだけの力量もある。
天は二物どころか三物も四物も彼に与えまくっているのだ。

つまり、彼はこの本の中で、自分の「低収入でも、好きな仕事だけを少しだけやって、毎日好きなことをやって遊んで暮らす」という生活がどのように成り立っているのかを正直に詳しく書くことで、結果的に、それがそう簡単に真似できるものではないことを、暗に提示する形になっている。

もちろん、これをハッキリ書けないのは、立場上いたしかたがない。「これは、オレだからこそできるんだわー」なんて、実際その通りだったとしても、本人が自分でそれを書くわけにはいかない。ミサワじゃないんだから。だから、それを言うのは、別の人の役割なのだ。

その辺の事情を読み取れない頭の温かい方が、彼をまねた生活をはじめても、わりとすぐに行き詰まって、もとの普通に働く生活にもどってしまうんじゃないだろうか。

もちろん、だからといって「普通の人にはpha氏のような生き方はできない」とも言いきれない。

もっと普通の人の中にもpha氏のような生活をしている人はそれなりにいるかもしれないが、そういう人は表に出てこれないし、ロールモデルになれない。
pha氏のように、twitterのフォロワーを1万人も獲得したり、上手に自分をブランディングしたり、「ふつーの人がふつーに楽しく読める本」を書いたりできるようなハイスペックの人だからこそ、影響力を持ち、人々の「ロールモデル」になることができる。
だから、「ハイスペックじゃないとロールモデルになれず、ハイスペックだとロールモデルとして説得力がない。したがって、『説得力のあるロールモデル』という存在自体が自己矛盾している」という構造的ジレンマはどうしょうもないことで、そこはある程度目をつぶらないと、話が始まらない。
敢えて言うなら、ハイスペックじゃないけどpha氏のような生活をできている人たちを取材して、それをもとに本を書けばいいんだけど、それだと本を書く労力が大きくなりすぎて、それこそ労働の嫌いなニートのやることかどうかだんだん怪しくなってくる。

だから、この本だけでは、普通の人でもそういう生活が成り立つかどうかは判然としないのだけど、
少なくとも、多くの納税者が疲弊するほど、pha氏のような生活をする人が多くなるようには思えなかった。
彼自身もこの本の中で書いているように、この本はあくまで「少数派」について書かれたものなのだと思う。

それに、100年前の日本ですら、けっこうな数のゴクツブシが養われていたのだ。
いくら高齢化社会で負担が増えたとはいえ、
100年前に比べると平均年収が実に何十倍にも膨れあがって、
世界的にも堂々たる富裕国の一つになった現代の日本で、
少数でしかないこの手の人たちすら養う余裕すらないというのも不可思議な話だ。
この人たちのために少々余分に税金を取られたからといって目くじらをたてるのは
ケチケチしすぎじゃないだろうか。

それよりも、才能と行動力あふれる彼らの生き様を、ネットでコンテンツとして楽しんだ方が、社会全体はよっぽど豊かになるんじゃないだろうか。(「才能と行動力あふれるニート」って、ものすごい語義矛盾な気がするけど)
それに加えて、彼らの存在が刺激剤になって、社会の空気が、「ちゃんと働いて稼がないことはみっともない」から「低収入であまり働かない生き方もアリだよね」の変化し、「まだまだ経済成長が必要だ!」と「所得倍増計画」的ノリの国家ビジョンをいまだにかかげるアナクロニスティックな政治家より、新時代にふさわしい「労働時間三割減計画」的国家ビジョンをかかげ、イノベーションの成果を所得増よりも労働時間短縮に回す政策を実施する政治家が当選しやすくなるような社会になるのにいくばくかでも影響を与えられれば、その方がよっぽどみんなの利益になるんじゃないだろうか。

もちろん私自身がこれに対する反論とさらにその反論を即座にいくつも思いつくぐらいだから、これだけでは異論はまだまだたくさんあるだろうが、大まかな方向性としては、「こういう選択肢があってもいい」と思う方も、けっこういらっしゃるんじゃないだろうか。

少なくとも、私は、この本が出版されたことを、歓迎したいと思う。
この本でも主張されているように、選択肢が多いことは善であり、豊かさだからだ。
15時間100万円という選択肢が追加されるということは、その分だけ我々の社会が豊かになるということだからだ。
「生き方の選択肢を増やす」という社会の方向性自体を否定する気には、とうていなれないからだ。
もし万が一、ほとんど働かずに遊んでばかりいる人が増えすぎて社会が疲弊するほどになったら(たとえそうなるとしても、それはずいぶん先の話だと思うけど)、そのときまた対策を考えるということで十分なんじゃないだろうか。

というわけで、
『いいね!』ボタンのように押せる
『「ニートの歩き方」出版おめでとう!』ボタン
作ってみました。
http://stmp.cc/cheer_jp/longtweet/nwpw

この本の出版を歓迎するtwitterユーザの方は、
この大きな青いボタンを押して、
『「ニートの歩き方」出版おめでとう!』スタンプを
付けてみていただけないだろうか。

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