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大学生の時、サークルの部室の前で友人たちとダベっていると、
小学校5~6年ぐらいの少女が寄ってきて、
「肩車して」
と言ってきた。
大学の構内なのだが、出入り自由なので、
「大学と関係ない小学生が入り込んでいるのかな」
と意識の片隅で思った。
肩車なんて子供の時以来やったことがなかったから転んだりしないかちょっと不安だったが、なんとなく雰囲気に押されて「うん」と答えてしまった。
ぼくの動悸が速くなった。
今にして思えば、この時点ですでにその少女に完全に飲まれていた。
その少女の容姿、声のトーン、表情、服装、匂い、全体が醸し出すある種の雰囲気に。
その少女はまるでぼくが「うん」と答えることが分かっていたかのように、あっというまにぼくの身体によじ登り、肩車の位置にするりと納まった。
僕の動悸がさらに速くなった。身体がかっと熱くなり、自分の顔が赤くなっているのが分かった。
そのとき、心臓の鼓動が少女に聞こえてしまうのではないかと恐れていたが、今にして思えば、その少女はぼくがどのような状態にあるか把握していたと思う。
彼女は確信犯だったし、この作戦を成功させる自信があったのだと思う。
その少女はミニスカートで、真っ白な足がスカートから伸びていた。
肩車をするためにはその足をつかまなければいけないのだけど、その少女に妙な色気があるせいで、その足をつかむのはなんだか犯罪的な感じがした。
あとから考えてみて思い至ったことだが、その少女は自分がけっこうな美人で、大学生の男ならたいてい彼女によじ登られるのを喜ぶことを自覚していたのだと思う。
少女はぼくが進むべき方向を指さして、僕を操縦して、自分の行きたい方向に歩かせた。
ぼくは完全にその少女のいいなりになってしまっていた。
サークルの部室は2階にあり、階段を下りていくとき、少女の頭が天井にぶつからないか気になったが、少女は慣れた感じで、階段を下りるときは、天井に頭をこすられないように天井との距離を片手で測りつつ、頭を低くしているような気配が、少女の体勢の変化と体重移動から感じられた。
ぼくとその少女の後から、子供たちがわらわらとついてきた。4~5人いたと思う。
ぼくは彼女に操縦されながら、大学の構内を歩いていき、やがて彼女が目指す目的地に到着した。
ジュースの自販機の前だった。
彼女は僕にジュースを買ってくれと言ったので、言われるとおり、ジュースを買った。
すると次に、他の子供たちのジュースも買ってやれと言う。
なんとなく成行で、他の子供たちの分のジュースも買わされてしまった。
目的を達成した少女は、ぼくの身体からするりと降りて、「バイバイ」と手を振り、おそらくは彼女の子分である他の子供たちと、去っていった。
5~600円分をとられたわけだけど、騙し取られたような感じが残らなかった。
去り際の彼女の声のトーンと表情と身振りから、鈍い僕にも、彼女は一種の取引をしたつもりであることが読み取れた。早熟な彼女は「大学生の男子が美しい少女によじ登られて喜ぶこと」を知っており、意図的に身体を密着させていたのだ。そして、それと引き替えに、自分と、自分の子分たちにジュースを買わせる、という取引をしていたのだ。
ぼくがこの結論に至った傍証として、サークルの部室から少女たちにジュースを買ってあげた自販機までのルート上に、たくさんの自販機が並んでいる場所があり、そこの前を素通りして、わざわざ遠い場所の自販機のところで、ジュースを買うことになったというものがある。
たくさんの自販機が並んでいる場所の方が、当然、ずっと品揃えがいい。
にもかかわらず、少女がわざわざ遠い場所まで移動したのは、彼女のぼくに対するサービスのつもりだったんじゃないだろうか。
彼女を肩車しながら歩いているときに彼女がぼくに話しかけてきた口ぶりは、まるで美容師さんがぼくの髪を切るときに世間話をしかけてくるような、手慣れた感じがあった。
接客業を生業とする人特有の、あの雰囲気だ。
また、この「取引」の全行程が驚くほどスムーズにいったのは、彼女が、この取引をいままで何度も繰り返しているからだったのではないか。
今となっては真相は闇の中だが、もしこれが「取引」だったとするなら、結果的に僕があの5~600円で買うことになったものは、いったい何だったんだろう、と思うのだった。
追記:
思い返しているうちに、あのときはあまりにも彼女に圧倒されたせいか、彼女を実際よりも大きく感じていた気がしてきた。
実際に何年生だったのかは分からないけど、少なくとも彼女の物理的サイズは小さかったのではないかと思う。
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